エコトピック

2021.01.12

【カーボンプライシング】と【インターナルカーボンプライシング】何が違うの?

カーボンプライシング

菅首相は「2050年温室効果ガス0」に向けて、カーボンプライシング制度導入の検討を経済産業省及び環境省に指示しました。今回は、この【カーボンプライシング】と、合わせておさえておきたい【インターナルカーボンプライシング(ICP:Internal Carbon Pricing)】について説明いたします。


 

カーボンプライシングって何?

カーボンプライシングとは、炭素の排出量に価格付けを行うことをいいます。

カーボンプライシングは、2つの種類に大別できます。政府規制による「カーボンプライシング施策」と、民間の自発的な「インターナルカーボンプライシング」です。

カーボンプライシング施策の例として、国内排出量取引制度や炭素税があります。

国内排出量取引制度

国内排出量取引制度とは、個々の企業に温室効果ガスの排出枠(排出の許容量)を設定し、その排出枠の取引を可能にする、という制度です。

このような温室効果ガスの排出の価格付け、すなわち炭素への価格付けによって、経済効率的に排出の削減が促進されます。

排出量取引制度

上の図のように、排出量の限度を下回った企業は、余った排出枠を、排出量が限度を上回ってしまった企業に売ることができます。

このようなルールのおかげで、各企業は排出の規制に柔軟に対応できます。また、効率的な排出削減の技術や低炭素型製品の需要も高まります。

環境省 国内排出量取引制度

炭素税

炭素税とは、CO₂の排出量に応じて負担を求める税制のことです。

日本では、「地球温暖化対策のための税」という名称のもと、石油・天然ガス・石炭といったすべての化石燃料の利用に対して、環境への負荷に応じて負担を求めています。

ただ、現状では、CO₂排出量1トンあたり289円の負担となっており、炭素税を定めている諸外国に比べて低い価格設定となっています。 スウェーデンでは119EUR(約15,000円/t-CO₂)となっており、日本の52倍の価格に設定されています。

炭素税導入国の制度概要

環境省 地球温暖化対策のための税
環境省 諸外国における炭素税等の導入状況

このように、カーボンプライシング施策は、国が導入する制度です。それに対し、インターナルカーボンプライシングは民間企業が独自で行うことができます。

 

インターナルカーボンプライシングをわかりやすく解説!

インターナルカーボンプライシング(以降ICPとさせていただきます)は、「組織が独自に自社の炭素排出量に価格を付け、何らかの金銭価値を付与することで、企業活動を意図的に低炭素に変化させることができる」というものです。

引用:環境省 インターナルカーボンプライシング概要資料

ICPによって自社の炭素の排出量に価格を設定することで、炭素の排出量の価値を見える化することができます。
炭素の排出量を価格として定量的に表すことによって、企業が炭素の排出量の削減目標を設定しやすくなる、などのメリットがあります。

カーボンプライシング

引用:環境省 インターナルカーボンプライシング概要資料

炭素の価格付けとは、上の図の例でいうと、CO₂の排出量1tの削減に3000円のコストをかける価値がある、と企業内で価格を設定することをいいます。

この例では、今までのCO₂削減の取り組みでは、1t削減するために1500円支払っていたのに対し、これからは1tあたり3000円かけてでも削減しよう、という目標を立てたことになります。

この価格は、企業が低炭素への活動・CO₂削減への取り組みにどれくらい力を入れているか、という指標にもなります。
高い価格を設定するということは、それだけ脱炭素を重要視していることを意味します。

企業は、社会の動きに沿って価格を柔軟に変更することが可能です。脱炭素の動きが社会全体で強いときは、自社のICPも高くし、脱炭素に力を入れることができます。逆に脱炭素の動きが弱まっているときは、ICPを下げて低炭素の活動を通常に戻す、という対応ができます。

また、インターナルカーボンプライシングが重要な理由としては、CDPレポートの評価項目の一つであることがあげられます。

CDP 評価項目

参照:CDP レポート 2019 日本版

さらに、TCFDでも言及されていることから、今後もインターナルカーボンプライシングを導入する企業は増えていくと期待されています。

CDP、TCFDについては、下記の記事をご参照ください。

気候危機のリスクを、企業価値に反映する手法【TCFD】とは?

 

 

どれくらいの企業がICPを導入しているの?

世界では、2018から2019年にかけて、世界で1300社以上がインターナルカーボンプライシングをすでに導入している、または、導入を検討しています。

日本でも、インターナルカーボンプライシングの導入の動きがあり、2018年時点では導入している企業が67社、二年以内に導入予定の企業が68社でした。

ここでは、インターナルカーボンプライシングを導入している企業の例と、その価格を紹介します。

◆導入している国内企業の例

国内企業導入例1
国内企業導入例2

◆導入している海外企業の例

海外企業導入例

これらの企業のICPの価格を見ると、100円/t-CO₂の企業もあれば、100,000円/t-CO₂の企業もあります。

このように、ICPの価格には企業の間でかなりの価格の幅が存在します。

なぜ、企業によってこれほど価格にばらつきが生まれるのでしょうか。

炭素価格設定の違い
炭素価格設定の違い

ICPの価格は、各社の意思決定で変化します。
また、価格設定に用いるデータや、設定のプロセスによっても違いが出ます。

さらに、長期の気候リスクを考えてICPを設定している企業ほど、ICPが高くなる傾向があります。

これらの要因によって、企業の炭素価格にばらつきが生まれると考えられます。

 
CO₂削減コストって、実際どれくらいなの?

現在使われているCO₂の削減の代表的な手段には、風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギーがあります。
また、大気中からCO₂を回収する技術も開発されています。その技術の一つとして、CCS技術があります。

これらの方法を使うと、どれくらいの削減コストがかかるのか、考えてみましょう。

太陽光発電
太陽光発電

下記の資料を使って、例えば石炭火力発電と比べた際の太陽光発電の削減コストについて考えてみましょう。

発電方法別 コスト

参照:関西電力 原子力発電について

まず、石炭火力発電は、電力1kWhあたり943g(=0.943kg)のCO₂を排出します。
よって、1t(1000kg)のCO₂を排出するごとに、1000/0.943 = 1075kWhの発電が可能です。
石炭火力発電は、1kWhあたり12.3円の発電コストがかかるため、1075kWh発電するためには、1075×12.3 = 13043円かかります。
一方で、太陽光発電は、1kWhあたり29.4円の発電コストがかかります。
よって、1075kWh発電するためには、1075×29.4 = 31605円かかります。
まとめると、石炭火力発電の代わりに太陽光発電を用いるとき、1t-CO₂削減するためには、31605-13042 = 18203円かかります。


以上の計算から、太陽光発電による削減コストは、1t-CO₂あたり2万円弱であることがわかります。

風力発電
風力発電

では、風力発電ではどうでしょうか。 太陽光発電と同じ方法で考えていきます。

石炭火力発電は、1075kWhの発電あたり1t-CO₂を排出します。
このときの発電コストは13043円です。
風力発電の発電には、1kWhあたり21.6円かかります。
よって、1075kWh発電するためには、1075×21.6 = 23220円かかります。
まとめると、石炭火力発電の代わりに太陽光発電を用いるとき、1t-CO₂削減するためには、23220-13042 = 10178円かかります。


このように、風力発電によるCO₂の削減コストは、太陽光発電よりは小さいものの、1t-CO₂あたり約1万円かかります。

CCS技術
CCUS概要

参照:令和3年度 資源・エネルギー関係概算要求の概要

CCS技術は、排出されるCO₂を回収し、それを貯留、利用する技術のことをいいます。
火力発電所など、多量のCO₂を排出する施設での設置が想定されています。
CCS技術の研究開発は、令和3年度の経済産業省の概算要求で、65.3億円の予算がついています。

このCCSの導入に向けた大きな課題は、やはりそのコストの高さです。

CCSは、苫小牧で実証試験が行われていますが、その試験データをもとに試算されたコストは、11129円/t-CO₂でした

CCS試算コスト

参照:苫小牧におけるCCS大規模実証試験 総括報告書

コスト削減のために、より大規模な施設を作ることによる圧縮機の効率の向上や、技術革新によるCO₂の分離・回収エネルギーの低減など、様々な工夫が考えられています。
しかし、これらの工夫をすべて取り入れたとしても、そのコストは5580円/t-CO₂になると試算されています。

さらに、実証試験の施設は、CO₂の発生場所と分離・回収設備が隣あっているため、CO₂はパイプラインで輸送しています。
しかし、実用化された場合、CO₂の発生する工場や発電所とCCS施設は離れていると考えられます。
このとき、CO₂を輸送する際のコストもかかってしまい、さらに削減コストは高くなってしまいます。

この他にも、地域住民の理解が得られにくく施設の候補地の選定が難しいという問題や、安全性の問題などがあり、実用化には様々な課題が残っています。

日本の炭素税、安くない?

以上のことを踏まえて、もう一度日本の炭素税について考えてみましょう。
日本の炭素税は、289円/1t-CO₂です。 これは、太陽光発電や風力発電、CCS技術のCO₂削減コストに比べて、はるかに小さい金額です。

このことからも、日本の炭素税は安すぎると言えそうです。

フランス、アイルランド、デンマーク、カナダの炭素税は2000~4000円/1t-CO₂ほどですが、現在のCO₂削減技術では、少なくともこれくらいの値段にする必要があると考えられます。

もちろん、炭素税を引き上げることによって経済に歯止めがかかるというデメリットはありますが、2050年脱炭素社会を実現するためには、炭素税を見直す必要がありそうです。

 
最後に

インターナルカーボンプライシングは、温室効果ガスに価格を設定することで、企業の排出削減を手助けしてくれるような考え方です。

国のカーボンプライシング制度がどのような形になるかはまだわかりませんが、何だかの方針が打ち出されたとしても、事前に社内にインターナルカーボンプライシングを導入していれば、柔軟に対応することができます。

脱炭素経営を進める重要な手法として、弊社としてもできる部分から取り組んでまいります。

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