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【気候移行計画】って何?中小企業が抑えておきたい部分は?

エコトピック
脱炭素関連
移行計画イメージ

近年、【気候移行計画】の注目度が高まっています。【気候移行家計画】って、どのようなものなのでしょうか。
また、信頼できる【気候移行計画】という言い方をすることも増えてきました。信頼できる【気候移行計画】にするためには、具体的にどんな内容を記載ればよいのでしょうか。

中小企業も作成する必要があるのでしょうか。また中小企業と大企業とで、求められる内容は変わるのでしょうか。

そんな疑問を解決するため、調べた内容をご紹介します。(調査時期:2023年8月~9月)

【気候移行計画】って何?組織による定義の違い 

まず始めに、【気候移行計画】とは何か、を調べたところ、CDPやTCFDやGFANZなど、様々な組織で、異なるガイダンスが出ていることがわかりました。

それらのガイダンスの中で、【移行計画】を定義している部分や、定義に該当すると判断できる部分を抽出して、下記にまとめました。

 組織名  移行計画の定義
 CDP  組織が既存の資産、事業、ビジネスモデル全体を、気候科学の最新かつ最も野心的な提言に沿った軌道へと移行させる方法を明確に示した、包括的な期限付きの行動計画
※参照:CDP2022 気候変動質問書「気候移行計画」解説ウェビナー(2022/5)
 TCFD
気候関連財務情報開示タスクフォース
 組織の全体的な事業戦略の一側面であり、GHG排出量の削減など、低炭素経済への移行を支援する一連の目標と行動を定めている。
指標、目標、移行計画に関するガイダンス(2021/10)
 GFANZ
ネット・ゼロのためのグラスゴー金融連盟
 組織の事業活動を温室効果ガス排出量ネット・ゼロへの道筋に合わせるための一連の目標、行動、説明責任の仕組みと定義
※参照:金融機関のネット・ゼオ移行プラン(2022/10)
 TPT
移行計画タスクフォース
 低GHG排出経済への急速な世界的移行に貢献し、それに備えるための計画を定めるもので、企業の全体戦略に不可欠なものである
※参照:移行計画タスクフォース実施ガイダンス(2022/11)

それぞれ、表現は違いますが、大まかに、【気候移行計画】とは、ネット・ゼロ(脱炭素)達成のための具体的な行動計画、と言えそうです。

CDPの移行計画に関わる動き 

多くの企業で、移行計画を意識するきっかけになったのは、2021年、CDPの質問書に【移行計画】についての質問が追加されたことだったのではないでしょうか。

2021年5月の説明資料では、移行計画について、簡単な説明しかなく、どのような内容を含めばいいのか、不明確でした。

※参照2021年CDP気候変動質問書~2020年からの変更点~

2022年2月にCDPから移行計画のテクニカルノートが公開され、信頼できる気候移行計画の8つの要素とCDP質問書の該当箇所との関連性が示されました。

2022年5月、CDPから2021年の移行計画に関する質問の結果がレポートで公開され、移行計画を作成した企業の割合や、求める内容を開示できていた企業の割合等、報告がなされました。

※参照:CDP公式ウェブサイト 気候移行計画 
信頼できる移行計画が少ない理由

【気候移行計画】は、2021年、2022年あたりから、注目され、企業の中で対応が始まりました。つまり、現在、理想的なお手本と言える【気候移行計画】はまだないのかもしれません。

そうした状況も踏まえ、環境省で移行計画のフレームワークを公開しています。

CDPや環境省だけでなく、様々な組織が移行計画についての情報を公開するようになりました。

TPTって何?を調べてみた!

TCFDやCDP、ISSBやGFANZなど様々な組織から、移行計画についてのガイダンスが発表されるようになりました。

移行計画の注目が高まり、作成する企業が増える中、質のばらつきや、詳細な行動計画についての情報不足、項目もバラバラで比較や評価が難しい状況となりました。

そんな中、2022年4月、「移行計画の基準を策定」することを任務とするTPT(移行計画タスクフォース The Transition Plan Taskforce)が2年間の任期の元、発足しました。

この組織は、2021年10月、COP26で世界に先駆けて、移行計画の開示を義務化したイギリスが、産業界、学界、規制当局のリーダーを集め、下記の代表的な国際的組織と調整し、「移行計画のゴールド・スタンダードを策定」することを任務としています。

  • 国際持続可能性基準委員会(ISSB)
  • ネット・ゼロのためのグラスゴー金融連盟(GFANZ)
  • 気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)
  • CDP

信頼できる【気候移行計画】の具体的内容

様々な組織の移行計画を統合、調整しながら、より具体的な内容を詳細に解説したTPTの資料(5種類)について、調べを進めました。
※調査当時の資料は現在、アクセスできません。

TPTの資料は、金融機関の移行計画についてまとめた【GFANZが推奨する移行計画】の、5つの構成要素に基づき、まとめられています。

また、この5つの構成要素は、環境省が公開した移行計画のフレームワークと同じです。サブ要素については、GFANZと環境省で大まかには同じですが、GFANZのほうがより詳細に記載されています。

※下図参照:GFANZの資料を基に自社で作成した構成図

どんな感じの内容なのか、自社で翻訳し、開示サブ要素のひとつ「GHG排出の指標と目標」をまとめた内容をご紹介します。

  • a.スコープ1と2についての温室効果ガスの絶対総排出量に関する削減目標についての情報を開示しなければならない。
  • b.スコープ3の温室効果ガスの絶対総排出量に関する削減目標についての情報を開示しなければならない。
  • c. 追加的に設定したGHG排出量の目標(例:メタン排出量の削減目標など)の情報を開示しなければならない。
  • d. 4.3.a-cの下で開示された目標が、移行計画の戦略的野心をどのように反映しているか、またそれらの目標が実施戦略やエンゲージメント戦略において提示された活動とどのように関連しているかについての情報を開示しなければならない。
  • e. スコープ1および2の原単位目標を開示することができる。
  • f. スコープ3の原単位目標を開示することができる。
  • g. 土地利用、土地利用変化、バイオエネルギー、 炭素除去技術などの活動からのGHG除去量増加の目標を開示することができる。
  • h. コープ3の温室効果ガス排出目標から除外したカテゴリーがある場合はその理由も開示しなければならない。

    モニタリング及び報告システムを改善するための手段を講じている場合はその内容も開示する。

  • i. 4.3.a-cで開示した各目標について、開示しなければならない。
  • i. 目標設定に使用した指標
  • ii. 目標の目的
  • iii. 当該目標が適用される事業体またはその活動の部分
  • iv. 目標が適用される期間
  • v. 進捗を測定する基準期間および基準値
  • vi. マイルストーンまたは中間目標
  • vii.目標が定量的である場合、それが絶対的目標であるか、原単位目標であるか
  • viii. 気候変動に関する最新の国際合意(その合意から生じるあらゆる管轄権のコミットメントを含む)が、どのように目標に反映されているか
  • ix. その目標が、1.1.c.で開示されたパスウェイと整合しているかどうか、またどのように整合しているか、可能であれば、この目標がどのように達成されるかの予想される軌跡
  • j.4.3.a-c.に基づき開示される各目標の設定と見直しのアプローチ、および各目標に対する進捗のモニタリング方法に関する情報を開示しなければならない。
  • i. 目標とその設定方法が第三者によって検証されているかどうか
  • ii.目標を見直すための企業のプロセス
  • iii. 目標達成に向けた進捗を監視するために使用する指標
  • k. 4.3.a-c.で開示された目標に向けた進捗を評価するために使用される指標に対して、少なくとも年次ベースで報告すること。これには以下が含まれるものとする。
  • i. 各目標に対するパフォーマンスに関する情報
  • ii.企業のパフォーマンスの傾向または変化の分析
  • iii. 測定値が推定データに依存しているかどうか、またどの程度依存しているか(もし分かっていれば)
  • iv. 目標の修正とその説明
  • l. 4.3.kに基づくGHG排出量の情報開示において、以下の事項を行わなければならない。
  • i. 報告期間中に発生したスコープ1,2,3の絶対的総排出量をそれぞれ開示する。
  • ii. GHGプロトコル、企業会計報告基準に従って、GHG排出量を測定する。ただし、管轄当局または企業が上場している取引所から、GHG排出量の測定に異なる基準を使用するよう要求された場合はこの限りではない
  • iii. 4.3.l.i.に基づくGHG排出量の測定に使用しているアプローチを開示する

1. 企業がGHG排出量の測定に使用する測定手法、インプット、前提条件

2. 企業が、GHG排出量の測定に使用する測定方法、インプット、仮定を選択した理由

3. 報告期間中に、企業が測定手法、インプット、前提条件を変更した場合、変更とその理由

  • iv. 4.3.l.i.で開示したスコープ1とスコープ2 のGHG排出量について、以下の区分に分類する。

1. 連結会計グループ(親会社とその連結子会社など)

2. 連結会計グループから除外される他の事業体
(関連会社、合弁事業、非連結子会社、非連結子会社など)

  • v. 4.3.l.i.で開示したスコープ2 GHG排出量については、所在地ベースのスコープ2GHG排出量を開示する。また、利用者に企業のスコープ2 GHG排出量を理解させるために必要な、契約手段に関する情報を提供する。
  • vi. 4.3.l.i.で開示したスコープ3のGHG排出量については、以下を開示する

1. GHGプロトコル「企業バリューチェーン(スコープ3)会計報告基準(2011年版)」に記載されているスコープ3の区分に従ったスコープ3のGHG排出量の測定に含まれるカテゴリーを開示する。

また、スコープ3のGHG排出量のカテゴリーを除外している場合は、その理由と、報告を可能にするためにモニタリングと報告システムを改善するために講じている措置を開示すること。

2.企業の活動が資産運用、商業銀行業務、保険業を含む場合、企業のカテゴリー15の温室効果ガス排出量または投融資に関連する温室効果ガス排出量に関する追加情報を開示。

  • m. 関連性がある場合、土地利用、土地利用の変化、バイオエネルギー、炭素除去技術などの活動から排出される温室効果ガスに関する情報を開示することができる。
  • i. 4.3.l.i.に基づき開示されるGHG排出量に関する情報および4.4に基づき開示される炭素クレジットに関する情報とは別に識別可能であること
  • ii.どの第三者スキームが除去量を検証・認証しているか、またはする予定であるかについての情報を含むこと
  • iii. どの基準に照らして除去が認証されたか、または認証される予定であるかに関する情報を含む
  • iv. 持続可能性に関連するリスクと機会を生じさせる可能性のある、バリューチェーン全体における、ステークホルダー、社会、経済、自然環境への除去の影響と依存を、事業体がどの程度特定し、管理しているかを開示する(例えば、これには、人権への影響評価と緩和が含まれる)

上記はサブ要素の一つの項目の内容ですが、一文が求めている内容について、簡単に作成、対応できる内容ではないことが見て取れます。

こうした難易度の高い要求が、他のサブ要素にも沢山ありました。

中小企業で作る必要ある?作れる?

前項で一部ご紹介した内容を、ご確認いただくとわかりますが、近年開示が求められ始めた、企業の信頼性される【気候移行計画】は、中小企業にとっては、かなりハードルの高い内容でした。

ただ、「中小企業の場合~」といった記載はありませんでした。現状、中小企業向けSBTの認定時に、移行計画提出の必要はありません。

信頼される【気候移行計画】の内容は、全体的に、投資家向けの資料であり、上場企業が対象になりそうです。

もちろん、作成に挑戦することはできますし、取引先銀行や顧客への印象を向上させる可能性があります。

弊社は、現時点では、信頼される【気候移行計画】が求める第三者検証付のSCOPE3を含む詳細なデータはなく、投資額を踏まえた温室効果ガスを0にするまでの詳細な削減計画もありません。

形だけ作成することはできても、信頼できるものにすることは難しいと考え、世界の同行を追跡しながら、様子を見ているのが現状です。

最後に

信頼される【気候移行計画】について、中小企業の立場で、調査し、ご紹介させていただきました。

調査して、改めて、世界が求める温室効果ガス削減の必要性や、求められる基準は、日々高まり変化しており、追いつけないレベルだと感じました。

世界の先端の取り組みとの差は開く一方でも、「もう、無理だ」と諦めずに、可能な限り、理解に努め、できる部分から行動し、削減や改善につなげていきます。

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