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どうしたら熱帯林を適切に守れる? カーボンクレジットの課題とこれから

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脱炭素関連
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企業が脱炭素を進めるための手段の一つとして、カーボンクレジットがあります。カーボンクレジットを利用すると、他団体の排出削減を買い取ることができ、企業が避けることができない排出分を打ち消すことができます。

しかし、カーボンクレジットでよく使われる森林吸収の認定基準等が定まっていないため、低質なクレジットが出回る、といった問題点が多く、信頼性が低いです。

本記事では、最近新たに発表された「高品質な熱帯林カーボンクレジットに関するコンセンサス・ステートメントの草案(Draft Consensus Statement on High Quality Tropcial Forest Carbon Credits)」の内容に注目しながら、カーボンクレジットの課題や今後の展望について見ていきます。

カーボンクレジットの必要性

熱帯林年間600万ヘクタール減少、劣化

出典:環境省自然環境局自然環境計画課 森林と生きる 世界の森林を守るため、いま、私たちにできること 

カーボンクレジットは、再生可能エネルギーやエネルギー効率の良い機器を導入したり、植林や間伐などで森林管理をしたりすることによって実現した温室効果ガスの削減量や吸収量を数値化し、取引が可能な形態にしたものです。

このようなカーボンクレジットを用いての排出のオフセットは、SBTでは認められていません。

SBTは排出そのものの削減を重要視していて、オフセットによる削減は排出そのものの削減には繋がらないからです。森林吸収や炭素固定については議論が進んでいますが、明確な姿勢は示されていません。

CO₂森林吸収量をクレジットとして認めることの問題点

  • 永続性に課題がある。2022年に植林しても2050年以降もCO₂を吸収し続けるわけではない。成長が止まった森林を伐採した後、その木材に含まれる炭素を永久的に大気に放出しないでいられる保証がない。
    (商品に加工され使用後焼却されたら、大気に放出され、その分削減したことにならない)
樹木別森林吸収量
  • 生物多様性の面で大きな問題となる。CO₂吸収目的だけで原生林を伐採して、CO₂吸収量の多い例えばユーカリばかり植林することが世界中で起こる可能性がある。
  • 森林の価値はCO₂吸収だけではなく、生物多様性以外にも保水、防風など多様な価値を有している。既存の森林クレジットは、その価値を反映できていない。

写真出典:環境省自然環境局自然環境計画課 森林と生きる 世界の森林を守るため、いま、私たちにできること 

そんな中、Meridian Instituteという団体が、WWF等の団体と協同で熱帯林カーボンクレジットに関する声明文を発表しました。この声明文はSBTも注目しているもので、森林破壊の防止策としてのカーボンクレジットについて論じています。

本記事では、この声明文の内容について、紹介いたします。

声明文の内容

森林面積国別変化

イラスト出典:環境省自然環境局自然環境計画課 森林と生きる 世界の森林を守るため、いま、私たちにできること 

声明文の内容は多岐にわたり、全てについて解説するのは難しいです。そこで、声明文の重要な部分をピックアップして解説いたします。

背景

冒頭では、声明文が発表された背景として、炭素排出削減や除去クレジットに対する企業の関心の高まりが挙げられています。クレジットの購入を考えている企業のため、クレジットの質などを改善するためのガイダンスとして、この声明が作成されました。

さらに、熱帯林のカーボンクレジットを提供するプロジェクトの、先住民族や地域社会への配慮や見返りが現状では不十分であることが多く、これらを今後確保することの重要性にも触れています。

企業は、森林の消失により物理的なリスク及び評判のリスクを負っており、他人事ではないことから、森林の損失を食い止める手段を講じる必要性がある、としています。

企業が実施できる対策としては、熱帯林カーボンクレジットの購入だけではなく、熱帯林へのクレジット以外の支援や自社の事業のサプライチェーン以外での気候変動緩和活動への参加が挙げられています。

また、この声明文に対する企業からのフィードバックをもとに協議を行い、さらに詳細なガイダンスを今後提供する予定である、としています。

動植物1日100種消失

イラスト出典:環境省自然環境局自然環境計画課 森林と生きる 世界の森林を守るため、いま、私たちにできること 

クレジットの課題及びそれらに対するアプローチ

この声明文は、クレジットに関する以下の課題に対するガイダンスを提供することを目的としています。

  • 熱帯林の損失防止のために、企業がどのようにクレジットを利用できるかを明確にすること、及びクレジットの高品質化、規模拡大を加速させること
  • 先住民族と地域社会の効果的な参加と公平な利益配分の必要性を伝えること
  • 企業が高品質のクレジットの供給を促進するよう支援しなければならないことを伝えること

現在では、森林炭素クレジットはプロジェクト規模の活動によって生成されているものが多く、それらのプロジェクト規模のクレジットには以下のようなリスクがあります。

  • 認定基準、方法論、検証手続きの確立
  • 先住民族と地域社会の効果的な参加の遵守

これらの課題を一部解決する方法として、声明文では、管轄区域規模でのクレジットの発行への移行を挙げています。

管轄区域規模での大規模なプログラムは、単独のプロジェクトと比較して、認定基準や方法論の違いによって生まれるリーケージや非加算性、無常性などのリスクを軽減することができます。

また、政府が先住民族と地域社会の権利を承認することで、先住民族や地域社会の管轄プログラムへの効果的な参加を確約することができます。

管轄区域規模でのクレジットの成功には、強固な政策、モニタリング、執行の枠組みの確立と地元の関係者の有意義な参加が必要です。

熱帯林の価値1ヘクタールあたり60万円

イラスト出典:環境省自然環境局自然環境計画課 森林と生きる 世界の森林を守るため、いま、私たちにできること 

カーボンクレジットに関する企業のためのガイダンス

高品質の熱帯林カーボンクレジットについて、企業が以下のことを行う必要があります。

1. バリューチェーンを超えた緩和策に熱帯林の炭素クレジットを含めることを検討する

2. クレジットの購入を含め、常緑熱帯林への脅威を軽減するプログラムやプロジェクトへの支援を優先する

3. 信頼できる認定プログラムと基準から始め、既知の弱点やリスクに対処するために的を絞ったデューデリジェンスで補完することにより、購入するすべてのクレジットについて、社会と環境の誠実さの本質的な要素が満たされていることを確認する

4. 管轄権付きクレジット方式への迅速な移行を積極的に推進・支援する

5. 管轄のプログラムからのクレジットや完全にネスト化されたプロジェクトをより多く含むように、時間の経過とともにポートフォリオを進化させる

6. パリ協定との整合性、国別貢献(NDCS)の強化・達成にインセンティブを与える

7. 森林炭素クレジットの基準設定機関が、高い統合性、管轄権、完全なネスト化されたクレジットを目指す動きを推進することを強く奨励する

※ネスト化 とは複数の素材をひとつにまとめること
※デューデリジェンス とは投資対象となる企業や投資先の価値やリスクなどを調査すること
※ポートフォリオ とは金融関連で使用する場合、現金、預金、株式、債券、不動産など、投資家が保有している金融商品の一覧や、その組み合わせの内容のこと

最後に

人間の活動と森林

イラスト出典:環境省自然環境局自然環境計画課 森林と生きる 世界の森林を守るため、いま、私たちにできること 

この声明文において、カーボンクレジットを考える上で特に重要な位置づけになっているのが、「先住民族や地域社会への配慮とプロジェクトの参加」と、「管轄区域規模のクレジットへの移行」です。

私たちは、森林破壊について考える際、地球温暖化や生態系に与える影響について考えてしまうことが多いですが、その森林と共生している現地の人々の生活についてはあまり考えません。

現地の人々の豊かな生活を保障するためにも、森林を破壊して収入を得るのではなく、森林の保護管理による収入を得られるのが、今回紹介したような質の高いカーボンクレジットの良い点であると言えます。

また、架空の森林吸収効果で問題となっているように、管理方法の透明性や信頼性がカーボンクレジットの大きな課題です

その課題を解決するには、管轄区域規模でのクレジットの発行が有効であると考えられます。
管轄区域規模でのクレジットは、地域住民の管轄プログラムへの参加を確約できるだけでなく、認定基準や方法論の違いによるリスクの低減も可能であり、クレジットの質を高めるのに極めて有効です。

架空の削減効果を助長するような森林クレジット制度や管理体制は、問題解決ではなく深刻化させる可能性があります。

ただ、現地住民や現地の生態系、地域社会のためになる制度や信頼できる管理体制が本当にできるとしたら、クレジットの信用が高まり、地球温暖化防止や森林破壊防止の希望の光になるかもしれません。

森林クレジットに対して、国や企業の温室効果ガス排出量の削減を【しなくてもよい理由にする】ことは、世界の潮流から、ずれてしまい【グリーンウォッシュ】と言われかねません。一方で熱帯林の破壊防止は、世界的な課題だと認知されています。

温室効果ガス排出量削減目標とは別枠で、信頼できる森林再生、回復のためにこうした取り組みに参加する事は、企業価値の向上や評価の上昇につながる要素となりそうです。

※グリーンウォッシュとは:
気候変動の取り組みについて、ごまかしたり、上辺だけ取り組んでPRすること

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